諏訪の風景

諏訪の風景

湊明子歌集「陸封魚」

「陸封魚」は長野県岡谷市在住の湊明子さん、丹精の第一歌集である。

砂子屋書房、2012年5月発刊、178頁、定価3,000
著者は、短歌結社「氷原」に所属。「氷原」の長澤ちづ代表が序を書いている。書名の「陸封魚」は、海から切り離され湖沼などに封じ込められた魚のこと

(1故郷、信州諏訪の四季、身辺。 2旅、音楽など。 3二十代の作品)

端正で叙情豊かな歌が並ぶ。特に自然を切り取る繊細な眼は、著者の生まれ持つ感性の賜物と言える。自らの人生へ厳しい目を向けるピルグリム精神も見逃せない。

* 雨去りて拍子木ひとつ入るほどの間のありてのち蝉の鳴き出づ

* 陽を返し羽あることを知らしめてアキアカネ舞ふコスモスの野に

* 母あらば母と訪ふべき町ならむ梅雨の最中を通り過ぎゆく

* シャワー浴び胸にふうはり子猫抱き鏡の中に聖母子となる

* 耐へゐしをまづ一滴(ひとしづく)流るれば止める術なし涙といふは

* 言葉とは危ふき橋ぞさはあれど渡るほかなしけふもその橋

* 人拒む吾の強さを悲しめり初夏の陽の陰りゆくとき

* 生命は海に生れしとふ海鳴りを身のうちに聴く吾は陸封魚




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