諏訪の風景

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2 枕詞の分類

それでは、次に、大きな項目の二番目ですが、枕詞の分類のお話をしたいと思います。

枕詞の働きというのは当然、次に続く特定の言葉を修飾することでありますが、枕詞がその対象とする語を修飾する仕方が、二種類ありまして、第一には、その枕詞の持っている意味と内容によって、対象語を修飾していく場合です。二番目には、その枕詞の響きによる音の繋がりから次の言葉を引き出していく場合、この二つに分かれております。ここでは、二つに大別し、さらに類型別に整理してみました。

() 対象語と意味の上で繋がる枕詞
はじめに枕詞が対象語と意味の上で繋がるものであります

① 同格のもの。枕詞が、対象語と同格の関係にある枕詞です。これは、同じものを指す語を重ねた形になります。あるいは同意語の「反復型」と言うことができると思います。

・庭つ鳥→鶏(かけ)=「庭つ鳥」は「鶏(かけ)」の異名。
・みよしのの→吉野=「みよしの」は吉野を誉め讃えて言う語。
・うつそみの→人=「うつそみ」は「現(うつ)し臣(おみ)」、すなわち「この世の人」の意(「おみ」は神に対して人を言う語)。(空蝉は枕詞、「うつそみの」は「人」にかかれば枕詞だが、「うつそみの我れ」などといえば、単なる修飾語である。)
・あまづたふ→日=「天を渡ってゆく(もの)(すなわち)太陽」ということで、「あまづたふ」は「日」を修飾しているのでなく、「日」と同格の関係にあるわけです。「あめしるや・日」、「高光る・日」なども同様に考えることができる。
・花ぐはし→桜=「花美(ぐは)し」は「美(くは)しき花」と同じことで、花の中でも美しい花として桜を讃美する枕詞。因みに鯨の枕詞「いすくはし」も同様に「魚の中でも素晴らしいもの」の意と言われています。

② 比喩によるもの枕詞が対象語の喩えとなっている枕詞です。これをさらに分類すれば、直喩・換喩・暗喩に分けられます。
<直喩型>、これは、直接に喩(たと)える形です。
・入り日なす→ 隠る=入り日のように隠れる。
<換喩型>、これは、ある事物を表すのに、それと深い関係のある事物で置き換える法。「青い目」で「西洋人」を、「鳥居」で「神社」を表す類。
・しきしまの→大和=しきしま(敷島、磯城島)」はかつて崇神天皇(すじんてんのう)等の宮殿が置かれた大和地方の中心地。それで「しきしま」で「大和」全体を指す象徴となった。「永田町」と言って政界全体を喩えるのに似ています。
・玉梓の(たまずさの)→ 使=昔、使者は玉梓(梓の木で作った杖)を持つ風習があったことから。持ち物によってその人を象徴させているわけで、かつて読売ジャイアンツの川上哲治を「赤バット」と呼んだのに似ている。
<暗喩型>暗喩は、隠喩(いんゆ)ともいいます。よくメタファー(metaphor)とも言っている。直喩よりも洗練されたものと見なされています。しかし短歌にうまく使うのは、大変むずかしいということが言えると思います。例えば、「人生はドラマだ」、「人生は旅だ。」と言った類になります。余談でありますが、聖書(バイブル)はメタファーの宝庫であると言われています。新約聖書の中で、例えば、キリストが「私は世の光です。私に従うものは、決して闇の中を歩むことがなく、命の光を持つのです。」言っています。これらも、キリスト自身が光、人生を闇、命は光と喩えています。これらは暗喩、メタファーを使っているといわれています。それでは、枕詞の暗喩の例としては、
・ぬばたまの→夜=夜の闇はぬばたま(ヒオウギの種子)のように黒いことから。
・さすたけの→ 君=「生(は)え伸びる竹のような」の意で、「君」の繁栄を言祝ぐ枕詞。

③ 転用によるものこれは、ある対象語を他へ敷衍し、展開していく型です。
・ぬばたまの→夢=これは、本来「夜」などの枕詞であった「ぬばたまの」
を、夢は夜見るものであることから「夢」の枕詞に転用しているかたち。
・ひさかたの→月=「ひさかたの」は本来「天(あめ/あま)」にかかる枕詞。それを天にある月の枕詞に転用したもの。「ひさかたの→ 日」、「ひさかたの→ 雲」なども同様。 
・あしひきの→峰() =本来「山」の枕詞である「あしひきの」を同じような意味の「峰」の枕詞に転用した。
・神風(かむかぜ)や→五十鈴の川=本来「伊勢」の枕詞である「神風や」を、伊勢神宮境内を流れる五十鈴川に転用した。
・たらちねの→親=「たらちねの」は本来「母」の枕詞。

() 対象語と音韻の上で繋がる枕詞
次に、枕詞が 対象語と音韻上の関係で結びつくものでありますが、これは、枕詞とその対象語が、意味の上では関係がないにもかかわらず、音によって通じ合うことから結び付いたものであります。これは、いかにも、いい加減だ、ということではなく、古代、文字がなくて、音の響きだけを頼りに歌を作っていた時代には当然のことであったと思います。

① 掛詞型、この例は
・あづさゆみ→春=弓を「張る」と言うことから同音の「春」を導く。
・玉櫛笥(たまくしげ) → 二(ふた) = 玉櫛笥は化粧道具を入れておく箱。箱には蓋が付き物なので同音の「二(ふた)」の枕詞となる。
・ししくしろ(宍串ろ)→黄泉=「宍串ろ」は肉を串に刺したもの。良い味なので「よみ」に掛かる。
・天飛ぶや→ 軽=「雁」の枕詞であった「天飛ぶや」を、似た音の地名「軽」の枕詞に転用したもの。
② 同音反復型、この例は
・柞葉(ははそば)の→母=「はは」という同音を持つことから。
・松が根の→ 待つ=「松」と「待つ」が同音。
・後瀬山(のちせやま)→のち=「のち」という同音の繰り返し。福井県小浜市の小山。


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